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ん。これが重要になってきます。
度応元年に西彼杵半島の黒崎で文政六年頃の「天地始之事」の写本が発見されたんです。それは手作りの聖書とはいえ、その中にとてもいい話があるのです。マリアが大雪の降る日に、家から追い出されて馬小屋に泊って子供を生むんです。生まれたばかりの子供が凍え死なないように、牛と馬が寄ってきて息を吹きかけてやる。家主の女房は、自分の家に連れていき一番大切にしている機織の道具を折って燃やし暖を取らせたのです。人間の純粋な気持がこんなに表現されているのです。この話は外来の聖書にはありません°私は感動しました。
受胎告知の時も天使がやってくると、「御身のすずしき御体、おかしあれかし」と、つまり処女の体はすずしい。そういう表現はなかなか使えません。魂が体内に入っていくときも、新訳聖書では鳩が口のなかに入っていくのですが、『天地始之事』では蝶となっています。見事な日本的な表現です。
またマリアがルソン国の帝王ゼウスの求愛を退けるために土用のさなかに雪を降らせるのです。帝王たちが驚く間にマリアが昇天していくという話だが、隠れキリシタンの間ではサンタマリアの雪殿という日本名になったのです。
島原の乱前の潜伏キリシタンは、ローマに忠誠を誓いました。今は中江ノ島に誓いをたてています。日本化したのです。土着化、風土化したのです。これは限りなく尊いことなんです。私の考えは、外来の思想でも日本に風士化して血となり肉とならない限り、真の思想ということはできない。
若者が祭りの本質に共鳴できなくなってきているのが問題なんです。どう共鳴させるかです。
田渕さんや鳥山さんの話を伺っていても、旧キリシタンは厳しい行事を課せられる信仰じゃないです。守ろうと思えば守れます。沖縄の宮古島にウヤガン祭りがありますが、冬山篭りをするのですが、寝具もなく着のみ着のままで寝るのです。五回位やるんです。厳しいお務めをやります、それに比べれば易行です。
馬場…精神の問題ですね。
谷川…それにはどれほどの価値があるものかを外部から支えていく必要があります。これが私たちの仕事です。
馬場…昨日、椎葉村(宮崎県)に行っていたのです。柳田国男の『後狩詞記』を口語訳し絵を添えた本を見せてもらったのです、それを各小学校で副読本として教えようとしているのです。山深い閉ざされた土地で先祖はとうやって暮らしてきたか、狩りをした時は、どのようにして肉の配分をしてきたのかを、滅びてしまった言葉を解説しながら説明しているのです。自分たちの祖先がこう生きてきたことを教えるのはとても大きい意味があります。隠れキリシタンが作った手作りの聖書『天地始之事』を小学生に教えるべきですよ。
谷川………『天地始之事』を絵本化して小学校に上がる前の子供に教えるといいです。またこれから生月を中心とした隠れキリシタン研究を進め緩める必要があります。その意味でみなさんのご協力がどうしても必要になってきます。中園さんを中心にやっていきましょう。今日は有難うございました。

 

注?「一通り」のオラショのうちの決ったいくつかを抽出して唱えているのが「六巻」
注?現在は合祀している。
注?ヘコ親も必ず「おさずけ」を受けた者でないといけない。
注?隠れキリシタンも仏教徒である。
一九九六年十月収録

 

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